ESSAY
同じ六月、僕らは別々の病院にいた
歩き方が、少しおかしかった。向こうから来る彼の体が、一歩ごとに片側へ沈む。
これまでに書いた13本。新しい順に並べています。
歩き方が、少しおかしかった。向こうから来る彼の体が、一歩ごとに片側へ沈む。
「行きたくない」スペインのインターナショナルスクールに通い始めた最初の一週間、息子は毎朝そう言った。

移住を決めた時の話をしよう。日本を出る前の何か月か、僕は毎晩のように、海外に移り住んだ人たちのブログを読んでいた。
九月も終わりに近づくと、うちのテラスではバーベキューをはじめる。夏のあいだは暑すぎて、火の前に立つ気にならない。
近所のバルのカウンターで、昼前にコルタードを飲んでいた。壁の上のほうにテレビがあって、いつものようにニュースが流れている。
生き方の話をしよう。夜のバルで隣になった男が、写真家だと言った。
昨日、日本からスペインに戻ってきた。荷物を置いて、テラスに出て、ビールを開けた。
実家の食卓で、僕は通訳をしていた母が息子に何か話しかけた。
「ねえ、見て」と言われたのに、画面から目を離さなかったことがある。
去年の自分の線が、どこにあったか知らないキッチンの扉枠に、鉛筆で線が引いてある。
「これでよかったのかな?」夜中に、ふとその声が聞こえることがあった。
21時を過ぎても、空はまだ薄い水色をしている。バルコニーから見える向かいの建物の壁が、まだオレンジ色に焼けている。

何もない日の話。今日、誰にも会わなかった。
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